【製作者の意図はガン無視レビュー】「メッセージ」〜観てから20分くらい、喋れなくなった映画〜
過去・現在・未来が重なったとしても
抗うことのできない因果の輪
そこでは自由意志ではなく
決定論が勝利する
時空間すら生み出す
究極の根源までたどり着けなければ
人間が因果の「殻」の中に閉ざされて
自由になることは決してない
その無意識深い絶望を
微かに残して幕は降りる
東洋の先覚者たちが
残していった課題が今ここにある
そんなことを感じる内容でした。
邦題は「メッセージ」、原題は「Arrival」。
「サピア=ウォーフの仮説」を取り込んだ、大変興味深い作品です。
原著は「あなたの人生の物語」というSF短編小説で、著者は中国系アメリカ人のテッド・チャン。
「サピア=ウォーフの仮説」
使用する言語が使用者の世界認識に影響を与える。
自分自身、英語という言語を通して思い当たる節が多く、言語によって世界認識を意図的に変化させるプログラムの開発を考えているわたしとしては、理解を深めたい分野でもあります。
ちなみに、わたしがここに書くことは、専門知識0なわたしが書く完全なメモ代わりなので、ネタバレするほどの内容でもなく、「製作者の意図はガン無視レビュー」です。
突っ込みどころは多いかと思いますが、こんな受け取り方もあるんだなぁ、という広い心で読んでいただけたら嬉しいです。
さて。
世界認識への影響、例えば時空認識。
時間は一般的には、過去から未来へ、単線的に流れるものです。現在は過去になり、未来へと進んで行く。
言語も似たようなもので、時制(動詞の変化で時を表す)を持っているものが多く、そうでなくても時を表す名詞(昨日、さっき、etc.)は必ずどの言語にも存在します。
また、言葉は連続的に発され、生まれては消えていく。一語一語、逐次意味を重ね、つなぎ合わせ、前へ前へ進み続けるのが時間であり言語、という共通点もあるかなと思います。
ただ、「文字」をとってみたときに、漢字のような表語文字、表意文字というものはとても面白い。単語を連ねて意味を理解するのではなく、形が意味する複数の情報を同時認識することによって理解する。時間の概念に当てはめると、過去・現在・未来が重畳する構造というイメージです。
発したときには時間が生まれてしまうのに、文字として描かれたときには、その文字の中には時間から自由になった宇宙が広がる。その宇宙は、一直線に進む時間の概念、つまりわたしたちが脳で認識する物理的宇宙空間内における、表層的なルールを越えていく。
さらに文字すら越えた世界に踏み込むとすれば、仏教の「不立文字」(ざっくり言うと、真理は言葉・文字で伝達することは不可能、という教義)が思い浮かびます。
言語という伝達方式の限界を越えていく教育の開発が本業であるわたしとしては、この辺のお話が大好物、、、とはいえちょっと深くなりすぎるので、ここでは一旦割愛。
線形的な因果律ではなく、円環が折り重なる重層構造の世界観。
わたしたちの存在という概念や世界観を根底から揺らがせるように、時間概念を映像化し、東洋と西洋の境界線を越えていこうとするような映画でした(越えきれなかった感はものすごくあるけど)。
音楽や全体的な重さ・不気味さは個人的に好み。SFだけどSFらしくない仕上がりだし、興味ある方はぜひ!
P.S. 言語の限界を感じてしまうと、簡単に言葉を発せられなくなるのか、映画を観てからいっときは喋る気がしなくなりました。