ある日の非日常
どの季節にも属さない
生暖かい空気
東向きの窓から入る
曇り空の控えめな光
今朝誰かが下げかけて
そのままになったブラインド
黒く塗られた
天井の視線
懐かしい匂いのする
灯油ストーブ
部屋の隅に立っている
空き瓶たち
タバコの吸殻を抱えた
重い緑の灰皿
小ぎれいで物静かな
キッチン
止めるまで回り続ける
うっすら油のついた換気扇
誰かがおもむろに座る
白い丸イス
シンクの前に下がった
小さなフライパン
火を点けられて
慌てて目を覚ますガスコンロ
カラカラと
窓が開いた
思ったよりも
ひんやりした雨のあと
風に揺れる
川沿いの木々に
高速道路の
向こうの山々に
遅めの「おはよう」
急ぐ電車の足音
鳥の声とわたしの鼻歌
くたびれた
うすいピンクのトレーナーを着たわたしに
できたよって
後ろから呼ぶ声
目に見える
耳に聞こえる
鼻に香る
肌に触れる
舌で味わう
すべて
なぜ
心が震えるの
日常の中に潜む
非日常の存在
こんなにもそばにあって
まるで手が届かなかった
かつての記憶
語りかけてくる
隠れていた次元たち
ああ
そうか
意識の裏の裏
遠い昔
遠い未来
たしかに
あなたとわたしは
出会って
今この時も
気が遠くなるほどの速度で
出会いと別れを繰り返し
出会うたびに
歓喜の
別れるたびに
絶望の
涙を
流している
熱いコンロの上に落ちる
雪一粒
その一瞬の
出会いから
雪が息絶える
別れ際
歓喜と絶望の間で
次の出会いを約束する
誓いの叫び
言葉にならないそれを
わたしたちはすでに
知っている
この宇宙すべてを
生み出し続ける
その意志を
人は愛と名付けた